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熱気あふれるロシア市場、成長軸足がモスクワから地方都市への移行で問われる低価格車戦略

2008年8月モスクワ現地時間26日午前8時30分、モスクワ国際モーターショーのプレス発表会が開始、27日にかけて自動車18グループ34ブランドが合計87のプレミア発表を行う。

今回のモスクワモーターショーは、国際モーターショーとしての地位が得られた2006年に次いで2回目、ロシアのドメスティックモーターショーとして発足した1992年から数えると9回目の開催となる。

発表されるプレミアカーのうち、世界初となるワールドプレミアカーは10モデル、欧州域内で初発表となるプレミアカー7モデル、ロシア国内で初発表とされるロシア・プレミアカーは70モデルを数え、いずれも歴代を上回る。

モスクワモーターショーは、ソ連が崩壊して間もない1992年にITE社が主催し、その後旧ソ連の自動車・農機産業部門から組織変更されたASMとの共催となった。以来、2年おきにモスクワで開催を重ねてきた。しかし、2006年までの8回目までは、ロシア国内自動車メーカーまたは輸入車ディーラーによる出展品が中心であり、日米欧韓国自動車メーカーによる直接的な関与がなかった。このため、国際モーターショーとしての格付けがなく、ロシア国内のドメスティック展示会として扱われた。

近年のロシア市場は過去5年間年率30%以上の伸び、2008年にはドイツを上回って欧州最大規模、米中日に次ぐ世界4位市場になろうとしている。この驚異的な成長を背景に、世界自動車メーカーからロシア市場への関心度も急速に高まった。2006年には初めて世界自動車メーカーの本体による出展が開始、国際モーターショーに昇格した。

モスクワモーターショーは、自動車先進国で行われてきた5大国際モーターショー（フランクフルトIAA、パリモーターショー、東京国際モーターショー、デトロイト北米自動車ショー、ジュネーブモーターショー）に比べ国際自動車業界における地位やその影響力が及ばない。しかし、今回は、同じくBRICS新興国の中でも、2008年に1,000万台市場への突破が可能視される中国の北京国際モーターショー（2008年4月開催）に比べ、日米欧韓などの先進国自動車メーカーによるワールドプレミア発表モデル数が北京を上回っており、途上国にて開催される国際モーターショーとして最も重要度の高い一大イベントとなっている。

欧州の大手ディーラー・Inchcapeの調査によると、ロシアにおける乗用車販売のうち、これまでモスクワとサンクトペテルブルグの2大都市圏で全体需要の56%（2006年）を占めたという。しかし、2大都市を除く主要都市部においても所得上昇と都市化の進展により、2大都市圏を上回る伸び率で乗用車の需要拡大が続いており、2007年にはモスクワ（40.7%）とサンクトペテルブルグ（10.4%）の乗用車販売が全体の51%に低下した。このゆえに、これまで2大都市圏の富裕層と中間層が全体需要の6割強を占める需要構造も急速に変化し、地方都市主導の需要拡大が始まろうとしている。

このため、数年のうちには2大都市圏の需要が飽和し、地方都市の拡販力が今後競争力の強弱を分ける要素になると思われる。また、需要飽和が伴う価格引下げ競争と、物流コストなどの経費がかかる地方都市において効率的な販売網とアフターサービス体制の確立が、長期にわたって収益の源泉に繋がるとの認識がある。

以上のことからロシアにおける製品のコスト体質が強く、かつ地方都市に展開できる自動車メーカーは中長期的に競争力の維持・強化に繋がっていく要素になると考えられる。

今回のモーターショーにおいて、高級車やハイエンドSUVの新車発表が林立する中、都市部中間層や地方都市への需要開拓を目指す新製品としてRenaultのSymbolがある。Renaultが、ロシア最大の自動車メーカーAvtoVAZと包括的提携により、AvtoVAZが持つロシア全域の販売網を、Renaultが開発する低価格車で拡販を目指す戦略である。さらに、AvtoVAZも今回のモーターショーにおいてC-Crossという上級小型SUVのコンセプトを発表しており、いよいよロシアの自動車メーカーも攻勢をかける局面になってきている。

主要各社が8月26日に行ったプレスデイの内容をまとめると、VWはグループ傘下ブランドが持つ個性を重視し、それぞれのブランドの独自性を保ちつつ、多様なマーケティング政策を展開してく方針である。グループの中で最も勢いのあるAudiは、ロシアに1998年に現地法人を設立、10年目となる2007年にはロシアで1万5,000台を販売、今回のモーターショーを新型A6とスポーツセダンRS6のプレミア発表の会場に選んだ。Audiの目標は、「最も魅力あるプレミアムブランドを目指す」（The most attractive premiumn brand）として今後もディーラー網の拡充によりロシア拡販を図っていく。BMWも、ワールドプレミアモデルとしてX5の防弾仕様車X5 Securityを披露、より高いセキュリティ性を求めるロシアの富裕層のニーズに対応した。

三菱自動車は26日のプレス発表に、新型Pajero Sportのワールドプレミアを、益子社長が自ら披露し、ロシア市場にPajeroシリーズの再生を賭けた思いが伝わってくる。これに対し、トヨタは今回のモーターショーに約1,000平米の面積を持っておりブースを構えたものの、プレス発表予定が組まれておらず、プレミア発表車もなかったことから、プレゼンスを示しながらもロシア市場にアピールする姿勢は、たとえば三菱自動車に比べやや消極的な印象を受けた。また、富士重工の欧州担当役員によると、ロシアでは4輪駆動車の需要が高く、同社の製品にマッチしていると考えているが、今後は２輪駆動のユーザーにどう対応していくかが課題である。

現地調査会社Antal International Russiaの調べによると、ロシアの大都市に住む30才代で英語力のある管理職の平均月収は8万ルーブル（約40万円）があり、これに社会保障が付くことからエントリークラスの自動車を十分に購入することが可能となっている。また、高級管理職になると会社から自動車が支給される場合も多く、今後の自動車市場は年収とユーザーのクラスターに応じて拡大するとともにさらなる細分化が進化していくと考えられる。このように、都市部の新興中間層の人口が継続的に増加していくにつれ、エントリークラスの乗用車だけではなく中級車を含む乗用車の需要を継続的に拡大させる原動力となる。モスクワ近郊部に住む中間層の通勤手段またはレジャーなどとしてのツールという需要が拡大すれば、低価格車から中級車の需要の爆発的な拡大が見込まれている。

ロシアにおいて、低価格攻勢をすでにかけているのは中国メーカーである。中国の新興乗用車メーカー、奇瑞汽車も今回のモスクワモーターショーに出展し、欧州デザインを取り入れた小型乗用車M12（ハッチバック）、M11（セダン）を含む10モデルを出展した。奇瑞の尹同耀総経理が自ら行うプレス発表会において、「2008年からロシア全域に24時間の故障時救援サポート体制の整備に着手、補修部品の流通倉庫も強化することで品質保証内容と購入者への支援体制を大いに整備する」として、新規参入メーカーに弱いとされるブランド力と製品の知名度を、品質保証内容と支援体制で補足。さらに、2007年9月以降完成車プロジェクトの進出に際して部品の輸入関税の優遇策が締め切られたロシア政府の政策については、「（政令緩和に）期待せず当面は輸入完成車の拡販を目指す」（尹同耀同日語る）とし、ロシアにおける販売体制の強化を長期的な企業戦略として取り組む姿勢を明確にしている。

今回のモーターショーに出展された製品のほとんどは乗用車であったが、中国の第一汽車（FAW）と東風汽車（DFM）、インドのTATA、そしていすゞ自動車が小型トラック「エルフ」を出展した。ロシアの商用車市場は、これまでKAMAZなどの国産車や、東欧から輸入するTatraがローテック・ローエンド製品を中心に大きな市場シェアを占め、冷戦崩壊後はハイテク・ハイエンド商用車は西欧のSCANIA、MAN、VOLVOが進出し、ロシア市場を独断場とした。しかし、第一汽車と東風汽車などの中国メーカーとTATAは、ここ数年ロシア市場での販売を積極的に拡大させており、2008年7月より実施したEuro3排ガス規制についても対応可能な新型ディーゼルエンジンを搭載するなど、国産ローエンド製品と西欧製ハイエンド製品の中間を埋めるニッチとして製品ラインが整備されており、ロシアの進出戦略が注目される。

2008年8月28日現在

GMグループ

トヨタグループ

Fordグループ

VWグループ

Renault / 日産

BMW / Mini

PSA

M-Benz

Fiat

Porsche

Jaguar & Land Rover

Chrysler

三菱

ホンダ

スズキ

韓国メーカー

AvtoVAZ

GAZ

中国メーカー