全固体含めたバッテリー内外製による規模の確保と、材料不足/価格高騰への対応
今、世界ではBEVシフトを中心とした電動化と同時にバッテリーの確保競争が激化しています。2022年8月に米国・バイデン大統領が署名したインフレ抑制法案(IRA)が発効したことにより、世界の完成車メーカーとバッテリーメーカーは、IRAが求めるBEV現地生産に加え、今後強化される現地調達率への対応が急務の状況にあります。IRAは中国を排除するための法律ともいわれており、中国依存を遮断し、米国自前のBEVを生産する、ある意味、米国の過去の栄光を取りもどす狙いがあると言っても過言ではありません。バッテリーについても同様で、材料そのものは世界主要資源国からの調達が可能ですが、鉱山から採掘された材料を、バッテリーの正極材、負極材などに加工する工程はほとんど中国に依存しています。こうしたバッテリー産業構造は、中国を中心としたサプライチェーンが構築されていて、バッテリーを通じて世界のBEV業界が中国コントロールされています。つまり今回のIRA法案は中国中心のサプライチェーンを脱し、バッテリーの各国の自給能力確保と産業育成を図る「自主独立」を目指す第一歩といえるでしょう。とはいえ、現状のバッテリーサプライチェーンを急速に変化させることはできず、大型投資が求められることを含めて考えると、今後こうした米中摩擦とデカップリング、ロシアのウクライナ侵攻といった様々な状況がバッテリー調達のネックとなると考えられます。さらに、こうした素材段階での深刻な問題は、今後の2025年、2030年、2035年において求められる各国の環境・電動化規制への対応を難しくする可能性があるほか、完成車メーカー各社の事業計画そのものを揺るがしかねません。
世界的にカーボンニュートラルの実現に向けて、BEVシフトを中心として電動化計画が活発化しているのですが、この計画の実現において根幹ともいえるバッテリーの需給不安は、今後新たな展開を見せるに違いありません。既に発表されている生産能力の計画では、2030年までに少なくとも4TWh規模の生産能力が見込まれています。しかし、このうち、一部にESS(蓄電システム)などの非自動車向けも含まれていることから、実際の完成車メーカー各社が計画通りバッテリーを調達できるとは限りません。また、バッテリーの材料そのものの需給不安があることから今後の推移を見届ける必要があります。
このような状況の中で、自動車各社はいつどのようにどれくらいのバッテリーをいかに調達し、確保しようとしているのか、そして、いかにコストを下げて利益基盤を生み出そうとしているのか、さらに、素材から破棄、リサイクル、再利用といった一つのバリューチェーンの形成に関する各社の取り組みはどうなっているのか、様々な項目に関して業界の注目が集まっています。
本調査報告書では、世界的な電動化の動きとともに注目が高まっている駆動用バッテリー分野について、政府政策および自動車メーカー・サプライヤー(セル・部品など)の成長や戦略・将来展望の取りまとめに加えバッテリーを取り巻く世界的パワーバランス、投資、提携関係などあらゆる分野において調査・分析を致しました。特に材料需給状況とコスト変動解明に注力して、より現実的なバッテリー産業の見方と電動化への実現可能性について分析しております。主要自動車メーカー及びバッテリーサプライヤーの動向確認、今後の電動化分野における予測・判断材料として、当報告書をご活用頂ければ幸いです。