社会課題解決に向け官民挙げて空の移動革命を本格化
空飛ぶクルマで現在、主流となる垂直離着陸機(VTOL)は、1980年代にカナダのPaul Sandner Mollerが初めて開発に着手したといわれます。直近での「空飛ぶクルマ」は、必ずしも空陸両用車を意味しておらず、クルマのように気軽に移動できる可能性を持つエアモビリティ全般が空飛ぶクルマと呼ばれています。2010年代に開発が本格化し、2010年代後半から2020年代にかけて、空飛ぶクルマ(本書ではeVTOLとほぼ同義として使用)の事業化計画が具体化し、実用化への現実味が増しています。背景には自動車産業におけるCASEの急速な進展があり、空飛ぶクルマに必要な電池やモーターの性能、センサー技術や制御技術を含む自動化技術が向上したことで、空飛ぶクルマを実現するための技術的な要因が整いつつあります。また空飛ぶクルマに対する市場ニーズも、世界的に増加しています。世界規模で都市化による渋滞問題が深刻化し、日本では年間38.1億時間の渋滞による損失があり、経済損失は12兆円という国土交通省による試算もあります。更に日本では渋滞問題よりも過疎化や高齢化、ドライバー不足といった問題が深刻で、東日本大震災などを経験したことで自然災害への対応のニーズも高まっています。こうした環境面からのニーズと、これを解決するための技術力が整いつつあることで、空飛ぶクルマの実用化への取り組みは世界規模で本格化しています。加えて、2018年に米国Uberが空飛ぶクルマの具体的な市場見通しや料金見通しについて数値を示したことも、空飛ぶクルマの事業進展に寄与したと言えます。現在では世界各国の多くの機体メーカーが具体的な市場投入時期や機体価格などを公表するようになり、これにより機体向けに素材や部品を納入したいと考えるサプライヤーや、空飛ぶクルマを使用したビジネスを立ち上げたいと考える事業者が具体的な事業計画を立て易い環境になっています。その結果、空飛ぶクルマ向けに事業参入する企業は年々増加しています。
空飛ぶクルマの産業形成は社会課題の解決という観点だけでなく、自動車産業にも大きなメリットをもたらします。コストと性能のバランスが強く求められる自動車産業では採用が広がらなかった高機能の素材や部品が、空飛ぶクルマでは採用されるケースが多く見られ、そうした素材や部品がコスト競争力を伴った形で自動車産業に再注目され採用されることも期待されます。また電動化ニーズの高まりから自動車業界では脱エンジンの動きが見られる中で、ドローンや空飛ぶクルマでは当面の現実解としてエンジンを搭載する動きもあります。人を運ぶ空飛ぶクルマの普及に先駆け、人手不足への対応や過酷な環境での作業への需要から、今後産業用ドローンは爆発的に普及していく可能性があり、こうしたエアモビリティがエンジンの一大用途となることで、エンジン産業が再び活性化するといったことも期待されます。
本書「空飛ぶクルマの国内開発最前線と普及戦略」は、日本を中心に空飛ぶクルマの開発状況と市場見通し、事業性等について、世界との比較を交えながら調査・分析しております。機体関連の製造・開発に係る企業から、運航/サービスに関わる企業、離着陸などインフラに係る企業121社の動向をまとめるとともに、これを後押しする国や自治体の取り組みについて、キーパーソンへのインタビューを交えながらレポートいたします。
本レポートが空の移動革命に関わる方々や、エアモビリティ産業への参入を検討する方々の事業の一助となることを祈念いたします。