社会課題対応と収益成長の両立へ事業ポートフォリオ変革・外部連携・BtoC参入を推進
「課題先進国」と称される我が国では、⼈⼝減少や少⼦⾼齢化、これに伴う労働⼒不⾜や地⽅での過疎化などが進み、例えば道路インフラ⽼朽化や物流量の増加に対し、労働⼒不⾜が今後更に深刻化すると予想されます。加えて世界規模でカーボンニュートラルや資源循環への取り組みが強く求めるほか、⾷糧不⾜問題も深刻化が予想されます。⾃動⾞業界にも社会課題解決への貢献が期待されますが、「100年に⼀度の⼤変⾰」に伴う先⾏き不透明感から近年は社会課題解決と収益成⻑の両⽴を⽬指した新事業への検討が活発化しています。こうした取り組みの背景には、CASE対応の技術進化があり、特に環境分野では電動化で培ったノウハウを、物流分野ではADASやコネクティッド技術を応⽤し、環境負荷低減や社会全体の効率化への貢献を⽬指しています。これら以外にも、⾞載向けで培った技術を幅広い分野に⽣かす動きが⾒られ、医療・介護分野や農業分野、QoL(Quality of Life)向けなど、各社が貢献できる分野を幅広く開拓し、収益性を伴った課題解決製品に取り組んでいます。こうした動きはサプライヤーでも活発で、各製品分野で先⾏するトヨタGr.各社も、近年、モビリティの枠を超えた分野への参⼊を拡⼤する動きが活⾒られます。
新領域の製品には複数の価値を持つケースが多く、例えばアップサイクル製品は、⾃動⾞向け⾼機能素材の有効活⽤による⾼性能製品としての価値と環境保護という価値があるほか、⼀部企業ではユーザーとの直接取引によるBtoC参⼊にもつながり、これが既存の業務内容とは⼀線を画した「働き⽅改⾰/多様化」につながるケースも⾒られます。各社とも新事業を早期に収益の柱へと育成したい考えですが、新事業⽴ち上げには「まずやってみる」精神も必要であり、スモールスタートの思想が社内に根付くかも新事業の成否への重要な要素となります。このため複数の価値を持たせることがスモールスタートへのハードルを下げることにつながります。
直近の2023年度第3四半期業績を⾒ると、半導体不⾜の緩和に伴う⾃動⾞の⽣産回復や価格転嫁が進んだことで、トヨタ系各社の業績も好調が⽬⽴ちます。通期⾒通しでも、主要取引先の好調を背景に、多くの系列企業が2025年度または2030年度の売上⾼⽬標を前倒し達成または達成が視野に⼊る可能性が⾼く、当⾯は⾜下の需要対応が喫緊の課題となります。好調な業績から今後新たな⽬標引き上げを⾏う可能性もありますが、現状では先⾏き不透明感から保守的な⽬標にとどめる傾向が強いため、売上拡⼤よりも損益分岐点引き下げなど体質強化が優先される可能性が⾼いです。直近の好業績は新領域への取り組みにも影響を及ぼします。納⼊先からの供給拡⼤要請で繁忙となる⼀⽅、売上増で⽣じた資⾦を増産対応に振り分けるか新事業に投資するかは、中⻑期を⾒据えた重要な経営課題となります。CASE進展に⾃社の事業が沿っているメーカーにとっては、CASE対応にリソーセスを集中することが当⾯の発展につながる⼀⽅、CASEのメインストリームから離れた事業を展開するメーカーにとっては、CASE分野または新領域への参⼊が問われます。ただし電動化や⾃動運転・ADAS分野は先⾏メーカーが強く、新規参⼊でこれら分野のメインストリームで競争⼒を発揮するのはハードルが⾼いため、新領域参⼊への取り組みが重要となります。⾜元の業績好調で事業ポートフォリオ転換への喫緊性は緩和され、無理のないスピードで変⾰を進める余裕は⽣まれますが、中⻑期的に⽬指す成⻑曲線とのギャップを埋めるための経営戦略として、新事業の開拓は⾃動⾞業界のあらゆるメーカーにとって取り組むべきテーマとなります。
本書「トヨタGr.サプライヤーの新事業戦略」は、トヨタGr.サプライヤー10社が取り組む新事業の概要と最新動向について、調査・分析いたします。電動化製品、ADAS、エンジン系部品、電装品、内外装部品、⾞体部品、⾜回り部品、素材・資源など、多岐に渡る製品分野を⼿掛けるトヨタ系10社が、中⻑期的な成⻑戦略を描く上で、これまでクルマの進化に貢献してきた多様な技術を応⽤し、クルマ以外のモビリティや社会全体の進化に貢献していくための新領域の製品・システムを創出する具体的な取り組みについて、キーパーソンへの取材も交えながら調査・レポートいたします。
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